セレンディピティの逃亡劇 [6] 「いやー、おめぇさん達が心配でな…」 目の前にハグリットがいる。心配って…まだ別れてから1日しか経ってないのに。本当に心配性なのね。 「ハグリット!わざわざ来てくれたの…」 「余計なお世話なんだよ」 私の言葉を遮るようにマルフォイの声がした。隣を見ればマルフォイがじっとハグリットを睨んでいる。何やら危険な雰囲気。 「わざわざ来なくてもいい。さっさと帰れ」 マルフォイは低い声で呟くとさっさと歩いて行こうとする。 「ちょっと、マルフォイ!そんな言い方ないじゃない?ハグリットは心配して…」 「うるさい。迷惑なんだ。それにグレンジャー、何で君はあいつの味方をする?」 あいつ、という時にマルフォイは顎でハグリットを指した。味方?味方って…そういう問題じゃないじゃない!何でそんなにハグリットを毛嫌いするのかって事を私は言いたかったのよ。それに帰れって…わざわざここまで来てくれたのに…!! 何やらいろいろ考えているうちに怒りが頂点に達してきた。 「違うわ!味方とかそういう問題じゃないじゃない!何であなたってそう…子供なの」 「子供?馬鹿にしてるのか?グレンジャー」 「ええ、そうよ。馬鹿にしてるわ!」 「おいおい!喧嘩はそこまでだ!」 はっとハグリットの声で私は我に返った。よく見ればここはマグルの空港。ざわざわと周りの人々が私達に注目している。どうやら私とマルフォイはかなりの大声で言い合っていたらしい。 「黙れ、ハグリット。お前の出る幕じゃない」 マルフォイがまたハグリットを侮辱した。カチン!とついに何かが切れたような感覚が私を襲う。 「もう、いいわ。この計画、止めましょ。私、帰る!」 そう言ってロシア行きとは反対の方向に歩いて行くと後ろからハグリットの声が聞こえてきた。 「ハ、ハーマイオニー!待て待て。俺が悪かったなら謝る」 振り返るとハグリットは本当に申し訳なさそうな表情をして私に謝ってきた。マルフォイはちょっと離れた所で腕組みをしながらじっと私達を睨んでいる。 「違うわ、ハグリット。悪いのはマルフォイで…」 「いや、違くねぇ。俺が来なきゃお前さんたちは喧嘩しなかった…本当にすまねぇ…」 「……ハグリット…」 頭を下げて私に謝るハグリットの姿が何だかとてもかわいそうに見えた。心配してやって来てくれたのにマルフォイに侮辱され……そんな彼の姿を見てると切なくなる。そうよ、ここまで計画に協力してくれたのは誰だった?ハグリットじゃない。 「頭を上げてちょうだい?私こそ感情的になりすぎたわ…」 と言いつつ、ちらっとマルフォイの方に視線を向ける。彼は彼で私と目が合うと眉間に皺を寄せて向こうを向いてしまった。どうやら、マルフォイはマルフォイらしい。彼の性格からしてハグリットに謝るなどありえない。 「…ハーマイオニー…」 「大丈夫よ。ロシアに行くわ。これくらいの喧嘩でいちいちこんな事してられないもの」 とりあえずハグリットにはにっこり笑っておいて、マルフォイが立っている場所まで戻った。後ろからはハグリットもついてくる。 「……何だよ、帰るんじゃなかったのか?」 私を見ずに向こうを向いたままマルフォイが言った。 「えぇ。止めたわ。早く行きましょ」 「……」 「と、とりあえず、気をつけてなー……」 荷物を持って私達はパスポートを出した。ハグリットは心配そうな声で言うと手を振った。私は微かに笑いながらそれに応えて、ロシア行きの飛行機へと乗る。時間はちょうどよく、気候も晴れ。なのにハグリットと別れてから飛行機に乗るまで私とマルフォイは何もしゃべらなかった。 そしてようやく飛行機に乗る。席は後ろの方。乗客はあまりいない。 「…グレンジャー」 マルフォイは窓側に、私は通路側に座った時、ようやくマルフォイが口を開いた。 「何」 「……僕、こそ感情的になりすぎた」 「…そう」 マルフォイは窓の外をじっと眺めている。 「ごめん」 本当に聞こえるか聞こえないかの小さい声だった。だけど何だかその言葉が私には大きく聞こえて思わず笑みが零れる。そこでようやくマルフォイが私の方を向いた。 「どうせならハグリットに言って欲しかったけど」 「誰があんな奴に…いや、そう、かもしれない…」 昔から考えればかなり大人になったと思う。だって昔だったら謝りもしなかったじゃない? 「まあ、いいわ。私も悪かったし…」 「…グレンジャー」 「何?」 「実はさっきの口喧嘩。昔みたいで懐かしかったんだ」 「あら、そう。実は私もそう思ったのよ」 自然と笑いがこみ上げてきて、クスクスと笑い合った。アナウンスが流れて、飛行機が飛び立つ音がする。まだ、逃亡は始まったばかり。 ※夫婦みたい…(笑) |